人は常に「変わらない」と決心している
哲人 アドラー心理学では、気質や性格のことを「ライフスタイル」という言葉で説明します。その人が世界をどう見ているか。また、自分をどう見ているかこれらの意味づけのあり方を集約させた概念が、ライフスタイルです。狭議的には性格とすることもできますし、広くその人の世界観や人生観まで含んだ言葉です。たとえば、「私は悲観的な性格だ」と思い悩んでいる人がいるとします。これを「私は悲観的な世界観を持っている」と言い換えてみる。性格は変えられないものというニュアンスがあります。しかし、世界観ととらえるなら変容は可能でしょう。
青年 ううむ、少しむずかしいな。つまりそのライフスタイルとは「生き方」に近い話ですか?
哲人 そういう表現もあります。あなたは、気質や性格は変わらないものだと思っているでしょう。しかし、アドラー心理学ではライフスタイルは自ら選ぶものだと考えます。
青年 自ら選んだと?
哲人 ええ、あなたは自分のライフスタイルを自ら選んだのです。
青年 つまり、私は「不幸であること」を選んだばかりでなく、この「ひねくれた性格」も自ら選んだと?
哲人 もちろんです。
青年 いったいいつ選んだのですか?選んだ覚えなどありません。
哲人 およそ10歳前後だと言うのが、アドラーの見解です。
青年 百歩譲って、このひねくれた性格を選んだとしましょう。しかし、私はいまこんなひねくれた性格になってしまったのです。この事態は何も変わらないじゃないですか!
哲人 そんなことはありません。もしもライフスタイルが先天的に与えられたものでなく、自分で選んだものであるならば、選びなおすことも可能なはずです。
青年 ではどうやって選びなおせと?簡単にできることではないでしょう!
哲人 いえ、あなたは変われないのではありません。人はいつでも、どんな環境でも変われます。あなたが変われないでいるのは、自らに対して「変わらない」と決心しているからです。
青年 いやいや、まったくおかしな話です。私は変わりたい。これは私の本心です。なのに何で変わらないと決心するのですか?
哲人 少しくらい不満があっても今の自分が楽だからでしょう。もしも、新しいライフスタイルを選んだら、何が起こるか分からないし、どう対処していいかもわからない。常に不安が付きまといます。もっとつらい人生が待っているかもしれない。つまり人は多少不自由で不満でも、「このままの自分」でいることが楽で安心なのです。
青年 変わりたいけど、変わるのが怖いと?
哲人 ライフスタイルを変えるとき、我々は大きな「勇気」を試されます。変わることでの「不安」と、変わらないでいることでの「不満」。きっとあなたは後者を選択したのでしょう。アドラー心理学は、「勇気」の心理学です。あなたが不幸なのは、過去や環境のせいではありません。ましてや能力が足りないわけでもないです。あなたには”勇気”が足りない。つまり「幸せになる勇気」が足りていないのです。
人は誰でも幸せになれる。幸せになる勇気さえあれば。